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大阪高等裁判所 昭和54年(ネ)258号 判決 1980年6月27日

控訴人

株式会社関西鉄工所

右代表者

武村富治夫

右訴訟代理人

大橋光雄

被控訴人

丸紅株式会社

右代表者

池田松次郎

右訴訟代理人

小風一太郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

当裁判所も、控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は次に付加・訂正するほかは原判決理由の説示と同一であるからこれを引用する。

(一)  控訴人は当審における主張(一)において、本件訴訟は米国における米国丸紅の求償訴訟の提起の仕方が不当であるとするものであるから、訴訟法上不当な行為があつたかどうかは国際民事訴訟法の理想像を想定してこれを適用すべきであり、法例一一条が適用される余地はないと主張する。しかしながら、控訴人の主張によれば本訴は米国における米国法人である米国丸紅の行為が不法行為であるとするものであるから、たとえそれが訴訟に関するものであるとしても、不法行為の成否の判断にあたつてはまずもつて不法行為成立の要件・効果が日米いずれかの国の法によるべきかが決定されなければならないところ、法例一一条は正にその準拠法を定めるものであるから、同条が適用されることはきわめて当然である。

(二)  次に控訴人は当審における主張(二)において、本訴につき法例一一条が適用されるとしても、同条二、三項によりまず、法廷地法たる日本法を適用すべきであると主張する。同条一項は不法行為の準拠法につき不法行為主義の原則を定めているが右原則は同条二、三項により、その成立・効果につき法廷地法の制限を受けるものとされている。しかしながら、同条二項は一項を適用の結果不法行為地法によれば不法行為としての成立要件を充たすものである場合において、日本法によれば不法でないときは不法行為は成立しない。換言すれば、不法行為地法、日本法のいずれによつても不法とみられる場合に初めて不法行為が成立する旨を定めたもの、同条三項は日本法の認めない損害賠償その他の処分の請求を認めない旨を定めたものであつて、不法行為地法によつても不法行為が成立しない場合には同条二、三項は適用の余地がないことが明らかであるから、控訴人の右主張は採ることができない。

(三)  さらに控訴人は当審における主張(三)において、法例一一条による連結点たる不法行為地は多様であり、本件については日本も不法行為地であるというべきところ、控訴人は日本法の適用を求めているから日本の裁判所としては日本法を適用して不法行為の成否を判断すべきであると主張する。右主張は趣旨必ずしも判然としないが、もしそれが行動地法・結果発生地法のいずれも法例一一条一項により準拠法となるとするものであるならば、法律の牴触を解決する法である法例一一条の解釈として到底採り得ない(この点、不法行為の多様性を理由に複数の国際裁判管轄を認めることが必ずしも矛盾しないこととは異る)。また、被害者たる控訴人の選択によつて、行動地法・結果発生地法のいずれかが準拠法とされるべきであるとするもの(いわゆる選択主義)であるならば、次の理由によりこれまた採ることができない。なるほど不法行為の行動および結果発生はともに不法行為責任を発生させる重要な要件であるから、そのいずれの地も法例一一条一項にいう不法行為地にあたるとみることはあながち理由なしとしない。そして、不法行為制度は不法な行動によつて他人の権利を侵害した加害者に損害を填補させ、もつて被害者の救済を図ることを重要な目的とするものであるから、被害者救済の見地のみからすれば、準拠法の決定を被害者の選択に委ねることは一応右の目的にそうゆえんであるといえる。しかしながら、不法行為制度は一面において、社会生活における人の行動の基準を示し、右基準に従つて適法に行動する限り責任を問われることがないことを明らかにする機能をも有することは否定できないところであり、このことは、本件のような不当訴訟の提起、追行を不法行為の内容とする場合の準拠法を決定するにあたつては無視することはできないといわなければならない。かような見地からすれば、準拠法の決定をもつぱら被害者の意思にかからしめることは、行為者にとつて行為の結果の予測を困難ならしめるものであつて、右不法行為制度の機能を無視することになる(このことは結果発生地のみを法例一一条の不法行為地とする見解についてもあてはまる)のみならず、ひいては法的安定を害することとなり、相当でないといわなければならない。

なお、控訴人は、本訴につき準拠法を米国法とすることは、原審において本訴と併合審理されていた米国丸紅に対する損害賠償(求償)義務不存在確認請求訴訟の中間判決および確定判決の効力にてい触することとなると主張するが、右訴訟と本訴とは当事者の同一性の点はとも角としても、判断の対象を全く異にするものであるから、それが控訴人主張のような関連があるからといつて、右中間判決および確定判決が本訴に拘束力を及ぼすべきいわれは全くないといわなければならない。

(四)  原判決理由中請求原因五の2についての判断(原判決一二枚目裏一二行目から同一三枚目裏五行目まで)を次のとおり改める。

「次に原告は、訴外米国丸紅は米国第一次訴訟において十分防禦を尽していたなら訴外ジェリー・ドゥーチに対し勝訴できたのにこれを怠り、原告に求償するため、原告の同意を得ず安易に和解をしてその結果を原告に転嫁するため米国第二次訴訟を提起追行して原告を敗訴させたことは不法行為になる、と主張する。そこで判断するに、<証拠>によれば、米国第一、第二次訴訟はいずれも米国保険会社が米国丸紅との保険契約約款にもとづき、米国丸紅の名において応訴提起し、保険会社が選任した弁護士が米国丸紅の代理人となつてジェリー・ドゥーチと和解し、右保険会社から右和解金が支払われたものであることが認められるところ、このように、実質上保険会社の利益を代表する右訴訟の代理人が、当時、すでに原告に対して求償を求める第二次訴訟が提起されていたとはいえ、その履行の確たる見とおしがないまま(弁論の全趣旨によれば当時、原告は米国第二次訴訟につき米国裁判所の裁判管轄を強く争い、さらに日本において、米国丸紅を相手として右求償請求につき債務不存在確認請求の訴訟を提起しており、米国丸紅の右求償請求が実現できることは容易でないことが窺知される状況にあつた)、安易に不当な和解に応じたとは考え難いことであるのみならず、右和解金額は当初の請求額をかなり下廻るものであり、しかも、後記のとおり、第一次訴訟と矛盾のない解決を図るため同一訴訟手続内で提起審理される第二次訴訟においてもそのまま是認され、原告に対しその支払いが命ぜられていることなどに徴すれば、右和解金額は相当であつたとみざるを得ず、したがつて米国丸紅が第一次訴訟の防禦活動を怠り不当に和解をしたということはできないといわなければならない。甲第八号証の一、二、第九号証、第一七号証の一、二、第一八号証の二、三、証人城英雄の証言によつても原告の右主張を認めるに足りず、ほかにこれを肯認するに足りる証拠はない。」

よつて、原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから民事訴訟法三八四条一項によりこれを棄却し、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(本井巽 坂詰幸次郎 野村利夫)

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